各種メディアに頻繁に登場する将棋の用語に「王手」があります。最近では日常会話でも、しばしば耳にします。
一般に相手を瀬戸際まで追いつめて、後一押しで勝ち、といった意味合いで用いられるようですが、本当のところ、「王手」に、そういったニュアンスは殆どありません。
王手をかけるだけなら、先手を持てば対局開始三手目でかけることができます。
つまり、76歩、34歩、33角成り、最後の33角成りが「王手」です。
王手はかかりましたが、相手に同角、あるいは、同桂と取られて、角の丸損となります。形勢は大差で後手の優勢、いや勝勢です。
この後、羽生名人が先手を持って指し継いだとしても、後手がアマチュア初段以上の棋力の持ち主なら、恐らく勝てないでしょう。
この場合、後手が王手を防ぐのは容易です。2手目で42銀と指せばよいのです。しかし、33角成りと王手をかけてくれれば大差で後手の優勢になるのですから、防ぐ必要などありません。
例えば、サッカーなら、ゴールに向けてボールを蹴らなければ点は奪えません。将棋になぞらえれば敵玉へのアプローチである「王手」が不可欠です。
しかし、比喩として用いられた将棋というゲームでは、そうではなく、むしろ、逆です。
「王手は追う手」という格言があるくらいです。いたずらに王手を掛けて相手の王様を逃がしてしまうことを戒めた言葉です。
何度も王手をかけられ、自らは一度も王手をかけないのに、相手が万策尽きて投了。そんなことも珍しくはありません。
将棋をご存じない方々が「王手」という単語を使って表したいと意図するのであろうニュアンスを的確に比喩する将棋用語はありません。
強いて挙げれば「王手詰み」が近いでしょうか。
「王手詰み」とは、対手がどう応じても「王手」の連続で詰む。つまり、終局に結びつく状況です。
ただし、詰みに至る手順の最初の王手が指された時点で、対戦相手に「COMING BACK」はありません。
駒を置くマスを間違えでもしない限り、勝敗は決まっています。
映画「インディペンデンスデイ」で主人公が彼の趣味であるチェスの用語を頻繁に使っています。
それは「チェックメイト」です。これは、将棋に於ける「王手詰み」と同義で、場面に即したせりふとして使われています。
ちなみに、「王手」は英語では「チェック」です。
この「チェックメイト」が字幕スーパーでは、全て「王手」と訳されていました。
我々、将棋を趣味とするものにとっては、いたたまれないほどの違和感があります。