寂寥や郷愁の他にも廃墟に惹かれる理由があります。
それは、構造物の仕掛けを精査してカラクリを解き明かす楽しみです。的外れでも意に介しません。対象は既に機能を失った廃墟なのですから。
0点の考察でも、文句はこないでしょう。
知識はない方がよい、最初から解っていたのでは面白くありません。
本やネットで調べるなどという愚かな行為は万策尽きた挙げ句の最終手段です。注−これは、筆者の「お遊び」です。手っ取り早く正確なところを知りたい方は、現在ロープウエイを運営中の事業体が管理するサイトか日本ケーブルの公式ページでもご覧下さい。
グーグルでもヤフーでも関連サイトが辟易とするくらい表示されます。
上手に閲覧サイトを選べば、はるかに詳細な情報を得るのに三十分でおつりが来ます。
謎解きゲームの対象として「奥多摩湖ロープウエイ」はかなり上等な宝箱でした。
まず、筆者はロープウエイに関して殆ど知識がありませんでした。
循環式と交走式という二つの方式があることさえ知りませんでした。 申し分のない無知です。次に、好都合なのは、機能を停止してから半世紀を経過したサイトは充分に荒れ果てていて、構成要素が散逸していることです。
欠落したピースを想像で補う作業には、その昔に嵌ったアップル対応ゲームソフトのプロテクト破りに匹敵する面白さがありました。
川野駅と三頭山口駅、それぞれ二回ずつ訪れています。
初めは迷路に迷い込んだようでした。
コンクリートを打ち放した巨大な台座に据えられた滑車に絡みつくロープ。錆びかえった大きなモーターに動力変換装置。 竹藪に行く手を阻まれた底が抜けそうなゴンドラ。
これらの装置がどのような仕組みで動作していたのか、見当が付きませんでした。欠落だらけのピース群が現場にいた30分間でまとまるわけはありません。
家に帰ってデジカメで撮った写真をフォトショップで現像している課程でピースがようやく繋がり始めました。
玄関ホールに掲げられたプレートの記載にヒントが多数見つかりました。
「交走式」?
ゴンドラがすれ違いに行き来する運行方式? 容易に想像できます。
そういえば、プラットフォームは二系統に分かれていて、ゴンドラが隣に回り込める切り欠きがありません。
二台のゴンドラは、それぞれ別の軌道を往復するのだと解ります。「支索−ロックドコイルC型 直径48粍」?
支えるロープは48ミリ。ゴンドラは、このロープにブル下がって移動する。
「曳索及平衡索 フィラー型 直径18粍」?
曳索が引き綱を意味することは文字通りでわかります。
問題は「平衡索」です。これは一体なんだろう?手がかりは、ゴンドラを写した写真にありました。
左の写真は、三頭山口駅プラットフォームのゴンドラの上部、受索輪(走行輪)のアップです。
左方向が対岸、右手が駅機械室です。
受索輪の基部にロープが四本繋がっているのが確認できます。
左側の二本が恐らく曳索(曳き綱)。
右側の二本は進行方向に逆らったテンションを受け持つのだと思います。
これがないとゴンドラは正に糸の切れた凧のように曳引側に滑ってしまう。
これが、平衡索なのだと想像しました。
三頭山口駅構内にある平衡索重錘(後述)の役割も自ずと理解できます。ところで、曳索、平衡索共に、なぜ二本なのでしょう?
これは今以て解りません。一番それらしい理由は、
- 擦れあったり絡まったりするのを防ぐため支索と離す。
- その際、二本に分けて支索を基準とした線対称に並べれば曳引力の偏向が防げる。
初めは、一本が曳索(または、平衡索)で、もう一本は別の何らかの機能を担うものではないかと疑いました。
例えば、同じ曳索でも三頭山口駅で折り返してゴンドラの駆動装置から遠いエンドを逆向きに曳く曳索とか、、
しかし、川野駅機械室内にも、三頭山口機械室内にも、ロープを折り返すためだけの滑車が見あたりません。川野駅機械室内の曳索を受ける滑車が二重になっていること、三頭山口駅機械室内の「平衡索重錘+受索輪」が二つあることをみると、やはり、曳索と平衡索は二本ずつあると考えるのが自然です。
二本の曳索、平衡索は、同じ長さで平行に張られていて、ゴンドラの受索輪の根本で一纏めになっています。
つまり、曳索と平衡索は二台のゴンドラを繋ぎ目とした一本のループになっているのです。 さらに、、このロープウエイは、600メーター強の線路長に対して両端の高低差が65センチ。勾配は無いも同然です。
それでも「平衡索」?!?! この曖昧なネーミングのせいで、謎解きルーティンは多少滞りました。
従って、平衡索に委ねられる曳索としての役割はかなり大きくなります。
(対象の特性や有り様を現し切れていない、このような名称は、大抵、外国語の訳です。例えば、一頃、ラジオ中年の間で盛んに使われた「高声器」という単語、 これはスピーカーのことですが、元となったのはドイツ語です。話し言葉に訳しても「声の高い機械」。英語の「Speaker」も訳せば「話し手」。そもそもが、もっぱら人の声の伝達を目的とする装置の端末として開発された機器なので、昔は「高声器」や「スピーカー」で良かったかもしれませんが、。)
平衡索重錘について
三頭山口駅機械室内にコンクリート製の重りを下げた滑車群があります。
この装置は二台あって、それぞれ平衡索と思しきロープが通されています。この装置についてのみ、はっきりさせるためにネットで調べました。
その結果、ロープの弛みを吸収して、ゴンドラの動きを滑らかにするための装置であることが解りました。
支索の末端処理について
支索末端の処理方法は、川野駅と三頭山口駅では異なります。
川野駅では、コンクリート製の大きな基台の頂部に据えられた滑車で下向きに折られ、その先に見るからに堅固そうなコンクリート片の集積で成る重りを下げています。この重りで支索の張りを保つのだと思います。
重りを一塊のコンクリートではなく、小片の集合にしたのは、急峻な加速度に追従しうるレンジを稼いで部品の破損を防ぐためでしょう。一方、三頭山口駅側は当然の事ながら固定です。
機械室の壁際にある骨太の鉄塔に固定されたスリーブに通されたあと巨大なコンクリート製糸巻きに括り付けられています。
こうして、サイトの全容がほぼつまびらかになってみると、
無理なく無駄なく実に巧みにまとめられていることが解ります。技術集積の上に立つテンプレートに則ったものとはいえ、
乏しいリソースを最大限に生かした「洗練された設計」は、やはり、見事と言うべきでしょう。
この半世紀前に営みを終えたサイトには、至る所にエコが埋もれています。
古き良き時代の忘れ去られた「もったいない」を掘り起こすのも、地球を救うための一つのヒントになるのではないかと思いました。


