40余年も前、文庫本より一回り小さいサイズの解説書が売られていました。
戦法毎に一巻を成すシリーズものでしたが、ページ数が少なかったので、ダイジェストに近い内容でした。
(北辰堂の王将ブックス/ポケット版)
「例の横歩取りの本にさー」「相横歩で、8二歩、同銀、5五角打ちで、先手有利ってのが載っていただろう」
「例の横歩取りの本」が冒頭に記した解説書シリーズの中の一冊を指すことは直ぐに判りました。
ちなみに、この巻の著者は、才気煥発を絵に描いたような、あの芹沢博文九段(故人)です。
「うん、うん、うん、、、」
「昨日、新宿道場で柿沼さんと指したら、その将棋になったんだよ」
初手から話題の局面までの手順を記せば、
先手「7六歩」、後手「3四歩」、「2六歩」、「8四歩」、「2五歩」、「8五歩」、「7八金」、「3二金」、
「2四歩」、「同歩」、「同飛車」、「8六歩」、「同歩」、「同飛車」、「3四飛車」、「8八角成り」、
「同銀」、「7六飛車」、「7七歩」、「7四飛車」、「同飛車」、「同歩」、
件の解説書には、
以下、先手「8二歩」、後手「同銀」に、「5五角打ち」、の「銀香車、両取り」で先手有利と書いてありました。
ところが、、
「柿沼さんは、ここで2八歩と指してきたんだ」
「どーする、これ?」
「どーするたって、そんな手あるのー?」
銀取りを放置して、桂頭に歩打ち !、初めて見る手でした。
どう指しても先手が有利になりそうな局面なのに、芳しい応手が見つかりません。
例を示せば、「同銀」は「2五飛車打ち」で、先手不利。
「8二角成り」、「2九歩成り」の取り合いは、銀当たりがきつくて「4八銀」と逃げざるを得ず、「3八歩」と垂らされて非勢。
他の手段も散々検討しましたが、どうしても良くなりません。
挙げ句に、私が「2七飛車打ち」のヤケクソ気味の案を捻出しました。
この筋を、念入りに調べ、「なんとかなりそう」という心許ない結論で、その日は妥協しました。
後日、将棋世界や近代将棋、新聞棋戦の観戦記、プロ棋戦を網羅した月刊棋譜、等を調べてみましたが、
この「2八歩」は、その時点では、どのメディアにも載っていませんでした。
この手順は、その後もプロの将棋には現れませんでしたが、アマチュアの間では頻繁に指されていて素人なりに研究もされていました。
研究の具体的な成果としては、第一に、圧倒的多数に指摘されたところの「7七歩打ちはヒドかろう」でした。
玉の左側に斯くも堅固な袋小路を築いたのでは、右から迫られて参いらないはずがありません。
いつの間にか、「7七歩打ち」は「7七銀」に差し替えられて検討されるようになりました。
半年ほど後、元マルケー社員のアマ強豪、高橋さんが経営する将棋道場。
その場にいたのは、席主の高橋さん、マルケーで高橋さんの同僚だった、これもアマ強豪の藤隅さん、
同じく元マルケー社員で私の海城学園高校時代の同窓、佐藤勉氏。
折しも、道場内で行われていた相横歩の対局が終局し(対局者は覚えていません)、
上記の強豪達が加わっての感想戦になりました。
冒頭の変化に触れる局面に検討が及び、恐る恐る「2七飛車打ち」を提示すると。
間髪を入れず高橋さんが、「あ、、それダメなんです。」
「2九歩成り」、「同飛車」、「2八歩打ち」、「同飛車」、「2七歩打ち」、「同飛車」、「2二歩打ち」で、、
以下、次回更新時に加筆