どのような分野も分け入れば底の見えない深みに至るものだと思います。
将棋も例外ではありません。
ただ、将棋の深さには特徴があります。
将棋と並ぶ代表的なゲーム囲碁と比べてみると、その特徴がよく解ります。
囲碁の遠浅に対して、将棋はドン深なのです。
(「深さ」ではなく「一手の重み」といったほうが正確かも知れません。
本稿の主旨は読み進んで頂ければ解ります。)
序盤早々、重い選択を迫られる岐路があります。
囲碁の対局開始から数手は、カドっこにでも打ち続けない限り、形勢が不利になることはありません。
ところが、将棋は、二手目を誤っただけで、即、敗戦がありえます。
先手−7六歩、後手−3四歩、先手−3三角成り、後手−3二飛車
後手の二手目、3二飛車が、超悪手で将棋は終わりです。(ちなみに、先手の3三角成りもド悪手)
勿論、このように解りやすい悪手を指すはずがありませんが、
初っぱなからクレパスが隠れている将棋というゲームの厳しさを象徴する事例ではないでしょうか。
問題は、露わなクレバスばかりではなく、平坦に見える雪道にも埋もれていることです。
さすがに序盤早々それ程大きな落とし穴は潜んでいません。せいぜい、足を取られる位です。
しかし、小さな選択の過ちで知らず知らずのうちに歩きにくい道に向かう経緯はよくあることです。
目指す方向から外れぬためには、かなり深く確かな読みが要ります。
筆者が最近、「深いぃ」と感じたのは、ゴキゲン中飛車の序盤です。
ただし、筆者の主観にすぎません。
もう少し下まで読んで「そんなの常識だ」と思われる高段者の方も大勢いらっしゃるでしょう。
そのような方は、早々にページを抜けて下さい。恐らく時間の無駄ですから。
なお、著作権等侵害の恐れがあるので棋譜は最低限しか記載しません。
同じ理由で局面図も載せません。
そのため、解りにくい部分もあると思います。悪しからず、、
ゴキゲン中飛車は、近藤正和六段が編み出した戦法です。
中飛車戦法の変遷は、古来の原始中飛車、他の振り飛車戦法と同じく角道を止める中飛車、
故松田茂役九段が愛用したツノ銀中飛車、山口英夫九段が創案した五筋不突き中飛車、
そして、山口九段の弟弟子、近藤六段の「ゴキゲン中飛車」と続きます。
ゴキゲン中飛車は、創案者、近藤六段を始め多くのプロ棋士に愛用されている優秀な戦法です。
しかし、先手を持つと、この戦法を拒む容易な手段が後手にあって、それが唯一の欠点と思われていました。
その欠点を払拭する、新趣向を近藤六段自らが案出しました。
その眼目は「初手」にあるのですが、この初手を巡る変化が「深いぃ」のです。
先手番でゴキゲン中飛車を目指す−初手「5八飛車」の変化
近藤六段による新趣向は、初手、従って、開局一手目の「5六歩」です。
なぜ、「5八飛車」ではいけないのか?!
先手「5八飛車」に対して、後手が「3四歩」と角道を開けてくれれば、
すんなり「ゴキゲン中飛車」の基本形が築けます。
ところが、「8四歩」と飛車先の歩を突かれると困ってしまいます。
「8四歩」に対して、初志貫徹とばかり、「5六歩」とでも指そうものなら、
「8五歩」で後手の飛車先歩交換が防げません。
この事態を避けるためには、「5六歩」の代わりに「7六歩」と指し、
「8五歩」に対する「7七角」を用意しなければなりません。
さらに「7七角」のあと、「3四歩」と角道を開けられると、「6六歩」で角道を止める一手。
(放置すると「7七角成り」から飛車先の歩を交換されて指しにくくなります)
「5五歩」が可能ならば、それが理想の角交換拒否の手だてですが、
五筋の歩は未だ「5七」にあるのです。
この形は、角道を止めたフツーの中飛車です。
新趣向って、どこ? です。
先手番でゴキゲン中飛車を目指す−初手「5六歩」の変化
初手「5六歩」の根拠となる変化を、もう一つ書いておきます。
先手の初手「5六歩」の次、後手に「8四歩」と突かれて困るようだと、新趣向は崩壊です。
勿論、そうはなりません。
後手「8四歩」には、先手は普通に「7六歩」と指します。
以下、後手「8五歩」に、先手「7七角」、さらに先手「3四歩」には、後手「5五歩」!!
後手が順番を入れ替えて、「3四歩」を先にすれば、先手「5五歩」、後手「8五歩」に、先手「7七角」
後手の飛先歩交換を阻み、且つ、角交換も拒否、しかも、五筋位取りのオマケ付で、
先手にとって不満のない局面です。
上記は、作戦としてのポテンシャルを担保する重要な変化だと思います。
たかだか、数手の折衝ですが、手順の必然性には様々な要素が絡んでいます。
道しるべもなく重さも知れぬ未知の局面で、このように正確な手順を自力で見つけられるかといえば、
少なくとも筆者には全く自信がありません。
後手番振り飛車のエースとしてもて囃された「ゴキゲン中飛車」も居飛車側の対策が進歩して最近は勝率が良くないそうです。